まつもと市民芸術館では、文化庁の補助金により日本芸術文化振興会に設置された基金による「文化施設による高付加価値化機能強化支援事業」の一環として、当館舞踊部門芸術監督の倉田翠とともに新しい作品を作り出すことができる人材を育成し、グローバルに活躍するダンス作家/ 制作者を育成するプロジェクトを始動します。
滞在制作での地域にも開かれた活動を通じて、ハイレベル且つ独自の芸術文化を発信できる人材を育成し、2027年度以降には、本事業を通じて創作された作品を海外で上演することを目標とします。
「育成」とは何か。
私自身が、舞台芸術の専門的な育成というものを受けた体験が大学教育にしかないので、その時のことを思い出すことになるのですが、あれは一体何だったのか。
語り出すと様々なことがあるのですが、一番私にとって大きかったのは、現役のアーティストが、自分自身も一人のアーティストとして悩み考えしながら、本気で「アーティストを育てる」ことに向き合っていた格闘の時間を共にした、ということだったように思います。
訳がわからないことだらけでした。
何を言われているかなんて全然わからなかった。
ただ、考える時間がありました。 自分にとって、ダンスとは何か、作品を作るとは何か、私は何者か、あなたは誰か。
答えなど与えられなかったけど、それを切実に考え続ける変な大人たちがすぐ近くに居ました。
彼らは、先生であり、同志でした。
私は、私のようになってほしいなどとは思っていません。一緒に考えたい。は?って思いたい。
ライバルでも友達でも先生でもない、近くにいるちょっと先輩の変な大人として、共に格闘したい。
作品というのは、別に作らなくて良いんですよ。それでも作る道を選んだ同志として。
正直に言うと、海外に売り出す作品なんかにならなくても良いんです。(いや、しかしそれはミッションだから頑張るけど!) 納得いく、「おもしろい作品」を作ってほしい。
だから劇場は、とことん並走する覚悟で「アーティストが考えるアーティスト育成プログラム」を実現し、あなた方に投資します。
さて、少々長い付き合いになります。どうぞよろしくお願いします。
このプロジェクトからどんなものが生み出されてくるのか、どんな展開が待っているのか、是非ご期待ください。
まつもと市民芸術館芸術監督 倉田翠
1998年、群⾺県出⾝。3歳より瀬⼭紀⼦にクラシックバレエを師事。同スタジオにて、瀬⼭亜津咲、Fabien Priovilleらの作品創作に参加する。お茶の⽔⼥⼦⼤学入学後はピナ・バウシュを中⼼に作家研究を⾏いつつ、ダンサーとして様々な振付家の作品に出演。在学中より⾃⾝の作品を作り始め、2021年横浜ダンスコレクションにて最優秀新⼈振付家賞を受賞する。2023年に⾃⾝のカンパニー立ち上げた後、シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.15-フィジカル-に選出され、初の主催公演を実施する。自身が身体を感じる「内受容感覚」に興味を持ち、作品を通して他者とどのように共有できるのかを探っている。
2002年、群馬県出身。振付家、ダンサー、サウンドアーティスト。ccc振付コンペティション2011準グランプリ、『夢見の余韻』作・出演でセッションハウスアワード2023未来賞受賞。ダンサーとして、伊藤直子、近藤良平らの作品、TOKYO2020開会式等に参加。サウンドアーティストとして、山下残、山瀬茉莉などの作品に参加。2020年に芸術文化観光専門職大学1期生として入学し、兵庫県豊岡市を拠点に上演やワークショップ、ムーブメントリサーチなどを行っている。近年は、物と身体の合成によるハイパーニュートラルな身体から動きを生み出す、“アンビエントダンス”という創作方法を探求している。
1998年、新潟県出身。ダンサー、振付家、アート企画者。筑波大学、大学院にて舞踊学を専攻。AJDF-kobeにて5度の文部科学大臣賞、ヨコハマダンスコレクション2022コンペII 最優秀新人賞、SAI DANCE FESTIVAL 2023 ソロ部門First Prize、第13回エルスール財団新人賞、KYOTO CHOREOGRAPHY AWARD 2024 KCA京都賞&オーディエンス賞。過疎化する温泉地で町おこしを行う弟と「岩室AIR」運営中。特技はピラティス(マット・マシン)、柔道(黒帯)。作者が自身の経験や感情を基にした物語を書く「私小説」の様に、「自身の実体験を基に自作自演」でダンス作品の創作・上演を行う、個を究めて普遍を見出したい⦅私ダンス作家⦆。
アートコーディネーター
京都市出身。同志社女子大学表象文化学部英語英文学科卒業。京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)にてアートコーディネーターとして京都国際舞台芸術祭やアーティスト・イン・レジデンス等に従事。これまで担当した主な企画は、鑑賞プログラム「拝啓 京都芸術センターにまだ来たことのない貴方へ」、サマラ・ハーシュ「わたしたちのからだが知っていること」、国際共同調査・シンポジウム「みんなで土をラーンする!」。2025年度より京都国際ダンスワークショップフェスティバル共同プログラムディレクター。